HORIBA JOBIN YVON

The subject of this page applies in:
Japan
Alternative website:
HORIBA Japan
製品情報 製品名から探すカソードルミネッセンス測定システム
製品カテゴリ一覧
カソードルミネッセンス TOP
  ナノ応力顕微鏡の開発
  ・第5章〜第6章
カタログ
論文
アプリケーションノート

ナノ応力顕微鏡の開発

−高波長分解能カソードルミネッセンス分光法を用いた応力解析−

Giuseppe Pezzotti、西方健太郎、柿沼 繁
ナノ応力顕微鏡の測定例
1. ルビー中の固有不純物(Cr3+)発光の「応力−発光波長シフト量」検量線

ルビーはコランダム型構造を持つ六方晶系の結晶で、八面体の格子点に位置するAl3+イオンの一部がCr3+イオンで置換されており、このため歪みを生じている(4)。図4にルビーのCL分光スペクトルを示す。図中のR1とR2は、Cr3+の基底状態の真上にある2つのエネルギー状態(2Eレベル)に対応している。これらの発光スペクトルは、波長分解能が1 nm程度の通常のCL装置では明確に区別できず、1本のスペクトルとして観測される(4)。ルビーに非常に大きな応力が加えられると酸素イオンがCr3+イオンに対してずれて、R1とR2のエネルギー(2E)レベルにずれが生じる。2Eレベルから基底状態へ落ち込む電子は、ホスト結晶内に蓄えられた応力の方向と大きさに依存し、様々なエネルギーのフォトンを放出する(発光波長がシフトする)。

図4:ルビーのCL分光スペクトル
図4:ルビーのCL分光スペクトル

R1とR2のエネルギー(2E)レベルからの発光(Rバンド)のピーク位置は、2つのベル型の分布関数曲線にフィッティングさせることによって正確な値が得られる。一般的には、この分布関数として、Gaussian関数(G(ν-ν0; w))とLorentzian関数(L(ν-ν0; w))が用いられているが、Rバンドの解析にはうまくフィットしない。
そこで、我々は、Rバンドの形状をより高精度にフィッティングできる表現形としてPV(Pseudo-Voigtian)の式(2)があることを発見した。

V(ν-ν0)= G(ν-ν0; w1)[ L(ν-ν0; w2)] β ・・・・・(2)

ここでGは幅w1に関するGaussian分布関数であり、Lは幅w2に関するLorentzian分布関数、βは定数の指数(>0)である。 Rバンドの典型的なフィッティング結果を図5に示す。

図5:Rバンドのフィッティング結果
図5:Rバンドのフィッティング結果

図6に、Crが0.05 質量%ドープされたサファイア(つまり、ルビー)の3つの主結晶軸に沿って一軸圧力を加えた場合の、応力と波長シフトの関係を示す。応力と波長シフトの間に非常に良い直線関係が確認できる。図6中の直線はそれぞれの実験データに対して最小二乗法により求めた検量線である。

図6:ルビーの3つの主結晶軸に沿って一軸圧力を加えた場合の応力と波長シフト
図6:ルビーの3つの主結晶軸に沿って一軸圧力を加えた場合の応力と波長シフト
(a)R1
(b)R2


2. 石英ガラスの酸素欠陥から発生する発光を用いた応力分布測定

石英の結晶構造における酸素の欠如と過剰に対応して、2つの比較的広い波長帯域の発光(中心波長はそれぞれ460 nm及び630 nm(図7)が生じることが報告されている(5)。特に、酸素の欠如や過剰に基づく内在的な欠陥によって発生する石英ガラスの発光スペクトルにおける可視光部分は、ガラス質の状態においてのみ特異的に現れると報告されている。実際にこの発光は、石英ガラス結晶構造の内部に非晶質のマイクロ領域やマイクロボイド(微小空隙)を発生させる高速粒子(一般的にはニュートロン)を照射した後にのみ観察される(5)

図7:石英ガラスの酸素欠陥からの発光スペクトル
図7:石英ガラスの酸素欠陥からの発光スペクトル

結晶欠陥からの発光バンドは非常に幅が広く、不規則である。これは発光サイトの局所的分布に規則性がなく、大きくばらついていることが原因である。そのため、このような不規則なスペクトル形状に対する適切なフィッティング・アルゴリズムを見い出すことはほとんど不可能と言ってよい。代替手段として、まずSavitzky-Golay(SG)アルゴリズムを用いたスムージング処理を行い、次にエネルギーでスペクトルを一次微分する。最後にスペクトル曲線を微分して得られた派生カーブの横軸(波長)とのゼロ交差点から発光ピーク点の波長を比較的高い精度で求めることができる。石英ガラスの酸素過剰サイトからのルミネッセンス・スペクトルに関するスムージングと微分の処理の例を図8に示す。

図8:スムージングと微分の処理例
図8:スムージングと微分の処理例

我々はこの新たに開発したピーク波長算出手法を用いて、イギリスのサザンプトン大学から提供された最新の光デバイス用の楕円コア型SiO2ファイバーの残留応力を測定した。図9(a)に二次電子像を、図9(b)に残留応力マップを示す。測定結果からファイバーのコアにはかなりの量の圧縮応力が残留していることが確認された。

図9:光デバイス用楕円コア型SiO2ファイバーの残留応力測定
図9:光デバイス用楕円コア型SiO2ファイバーの残留応力測定
(a)二次電子像
(b)残留応力マップ
おわりに
本稿では、電子励起による発光バンドのシフト現象を利用する新しいピエゾ分光技術が、材料に蓄積されたマイクロ及びナノスケールの残留応力の計測・評価に有効であることを紹介した。
ルビー中の固有不純物(Cr3+)からのカソードルミネッセンスは各結晶軸において応力と波長シフト量の間に非常に良い直線性があることを確認した。また、石英中の酸素に関連する格子欠陥に特有のカソードルミネッセンスは、応力に対して高い感度を示し、光ファイバー中の残留応力の評価に適していることがわかった。また、新たに開発したピーク波長算出法を使い、ガラス材料においても圧力と発光スペクトルとの間に高い相関関係が得られることを確認した。具体的な応用例として、コア内及びコアとクラッドの境界付近における残留応力を測定した。
一方、今後の発展に向けていくつかの課題も残されている。?ゞ?間分解能の更なる向上、??GPaレベルの圧力印加による詳細かつ精密な校正方法の改良、?5ヽE?な歪みと化学組成とに起因するスペクトルのシフトを分離して評価するための新しい方法の開発などである。
電子励起によるピエゾ分光法は、光励起によるピエゾ分光や光弾性を利用した測定法など他の計測方法ではできない、極めて高い空間分解能を達成できる可能性を備えている。我々PFP研究チームでは更なる研究開発を進め、順次報告する予定である。
参考文献
  1. Pezzotti, G., 応力測定方法および応力測定装置, 国際公開番号 WO 03/076888 A1
  2. Pezzotti, G., The scanning electron microscope as a tool for experimental nanomechanics. JEOL News 38E, 13-19 (2003)
  3. Mc Clure, D. S., Electronic structure and spectra of impurities; pp. 1-132 in Treatise on Solid State Chemistry, Vol. 2. Edited by N. B. Hannay. Plenum Press, New York, 1988
  4. Ostertag, C. P., Robins, L. H., and Cook, L. P., Cathodoluminescence measurement of strained alumina single crystals. J. Eur. Ceram. Soc. 7, 109-116 (1991)
  5. McKnight, S. W. and Palik, E. D., Cathodoluminescence of SiO2 films. J. Non-Crystal. Solids 40, 595-603 (1980)

On this website

Search