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  ナノ応力顕微鏡の開発
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ナノ応力顕微鏡の開発

−高波長分解能カソードルミネッセンス分光法を用いた応力解析−

Giuseppe Pezzotti、西方健太郎、柿沼 繁
要旨
本稿では、まず最初にナノ応力顕微鏡の基盤であるカソードルミネッセンス(CL)分光法と、CL分光スペクトルを用いた応力測定について解説する。次に、ナノ応力顕微鏡のシステム構成並びに校正法、データ処理法について述べる。ナノ応力顕微鏡による測定例としては、ルビー中の固有不純物(Cr3+)からの発光ピークが応力により波長シフトする量の測定、並びに石英ガラスの酸素欠陥からの発光を用いた応力分布測定について論議する。最後に、ナノ応力顕微鏡による応力測定についてまとめ、今後の課題と将来性、そして新材料やデバイスの開発に与える影響について簡潔な見通しを述べる。
はじめに
著者らは最近、ナノ領域の応力解析にカソードルミネッセンス(CL)分光法が適用可能であることを見出し報告した(1) (2)。今後、測定精度や解析方法の一層の向上により、この新しい計測技術がナノ材料やナノデバイスの応力分布の解明に有効なツールになるものと期待されている。
本稿では、京都工芸繊維大学、及びHORIBAの光フロンティアプロジェクト(PFP)研究チームによってなされたこれまでの研究成果に基づき、CL分光スペクトルを用いたナノスケールの応力解析の研究開発状況を紹介する。
カソードルミネッセンス分光法
電子線照射による物質からの発光をカソードルミネッセンス(CL)という。CL分光計測システムは、電子顕微鏡と分光装置とを一体化したもので、前者はサンプル中の微小領域における形態学的観察とCL励起用電子源として、後者は発生したルミネッセンスの分光計測に用いられる。
CL法は、材料の化学組成や物理的構造の極めて有効な分析・解析手段である。CL法を使うと、半導体材料の粒界、p-n接合部などの欠陥や、結晶の内部の不純物濃度、エネルギーバンドギャップの状態、更にはキャリア拡散長といった重要な情報を得ることができる。また、近年では二次元マッピング技術が導入され、ナノ領域の形態学的データと分光学的データを組み合わせた分析ツールとして注目されている。
カソードルミネッセンス 分光スペクトルを用いた応力測定
我々が開発したCL分光スペクトルを用いた応力測定法では、CL分光スペクトルに含まれる発光ピーク波長が応力によりシフトする現象を利用している。応力により発光ピーク波長がシフトする現象はピエゾ*1分光効果(3)として知られている。
従って測定対象としては、材料またはデバイス自身が発光性物質である、もしくは発光機構(不純物や欠陥など)を含んでいることが要求される。もしこれらの条件を満たしていない時には、材料の原子構造の中に周囲環境の中で蓄積された応力に敏感に反応するような発光性イオン(例えば希土類元素イオン)を強制的に導入し、原子スケールの応力センサを構成する場合もある。

応力により発光ピーク波長がシフトするメカニズムの概念を図1に示す。発光バンドシフトと応力の関係は、(1)式のようにリニアな関係式で表される。

Δν=Πijσij ・・・・・(1)

ここでΔνは発光バンドのスペクトルシフト量、σijは応力テンソル、Πijはピエゾ分光係数の対称マトリックスである。

*1 
「ピエゾ」という言葉は「押す」ことを意味する古代ギリシャ語の“πιεζειν”から来ている。

図1:応力による波長シフトの概念図
図1:応力による波長シフトの概念図
ナノ応力顕微鏡
1. 計測システム

筆者らが作製したナノ応力顕微鏡システムを図2に示す。本システムは、熱電界放出型走査電子顕微鏡と高感度カソードルミネッセンス測定システム(ジョバンイボン社製 MP-32FE)がベースとなっている。

本システムの特徴としては、
  • 熱電界放出型電子銃により、試料にナノメートルサイズに集束した電子ビームを照射することが可能である。
  • 高感度高波長分解能分光器により、微弱なCLスペクトルの波長シフトを高精度に測定することが可能である。
  • 応力測定に必要な大量のスペクトルデータを、専用ソフト(HORIBA製 LabSpec)を用いて自動解析することが可能である。
などが挙げられる。

図2:ナノ応力顕微鏡システム
図2:ナノ応力顕微鏡システム


2. 既知応力による校正

発光ピークの波長シフト量から応力を算出する際には、「応力−波長シフト量」の検量線が必要となる。この検量線を作成する方法の一つとして、我々は図3に示す4点曲げジグを用いる。このジグにより試料上に圧縮と引張りの両方の一軸応力を発生させることが可能となる。試料に発生する最大応力は、試料サイズ、荷重点間の距離、加重の大きさから見積もることが可能であり、荷重点間中央の直線(図3の点線)上では、試料端を最大として圧縮から引張に応力の大きさが直線的に変化する。また、この線上の中心に存在するニュートラルアクシスでは印加応力が0になる。我々は、このようにして求めた応力とCL分光スペクトルから「応力−波長シフト量」の検量線を作成する。

図3:4点曲げジグ
図3:4点曲げジグ


3. フィッティング・アルゴリズム

応力解析を行う時に重要になるのが、得られたスペクトルデータのフィッティング処理である。応力解析において扱うCL分光スペクトルには、ブロードな形状や非対称な形状の多種多様なスペクトルが存在する。一般的な分布関数(Gauss関数やLorentz関数)をフィッティングするだけではスペクトルのピーク波長を高精度かつ再現性よく求めることができないこともある。我々はこのような場合においてもフィッティングを行うために、さまざまな分布関数の適用や微分を用いたピーク波長の決定法を導入し対応している。個々の具体的なフィッティング手法については5章の測定例に記述する。

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